水と生きる
温泉郷を襲った水害
宝泉寺温泉郷の起こりははるか昔、平安時代にまでさかのぼります。京都の僧侶・空也上人がこの地を訪れ、地元の人にお世話になったお礼に一本の杖を地面に突き刺したところ、杉の大木に成長したといいます。それから数十年後、地震により大木が倒れた後からなんと突然温泉が湧き出したのです。人々が「空也上人にいただいた宝の泉」という意を込めて「宝泉寺」というお寺を建立したことが、温泉郷の名前の由来にもなっています。川底、宝泉寺、生竜、壁湯の4温泉からなる宝泉寺温泉郷は互いに切磋琢磨しながら生活を営んできました。令和になった今も、泉質に恵まれた名湯、川のせせらぎが聞こえる秘境のような温泉郷として人々に親しまれています。
そんな温泉郷を水害が襲ったのが2020年7月のこと。記録的な豪雨により、宝泉寺温泉郷に流れる町田川やその支流が氾濫。11軒の旅館・ホテルが浸水などの被害を受けたのです。また、道路の陥落や、温泉水を通していた配管が破損し川に流されるなど、温泉郷全体にも影響が及びました。コロナ禍による打撃から立ち直る前に起こった水害は、温泉街で働く人々の心にも衝撃を与えました。その後、温泉郷のみんなで一丸となり復旧作業に取り組み、現在に至っています。
復興元気!
プロジェクト、始動!
水害から復興し、かつての活気を取り戻したい。そしてさらに飛躍したい。宝泉寺温泉郷に生きる人々の思いが重なり、2020年の冬に「復興元気!プロジェクト」が始動しました。はじめに、温泉郷のイメージづくりと取り組みの方向性を決めるべく、魅力について話し合うと、泉質が優れており飲泉ができる、水が澄んでおり夏になると一ヶ月以上も蛍が舞う、福岡や大分の他のエリアから好アクセスといった意見がたくさん出ました。その結果、夜に楽しむことができる企画、温泉水の泉質を生かしたコンテンツづくりを行うことになったのです。
今回の取り組みの中心は、次の時代を担う若手メンバーたち。一度、宝泉寺温泉の外に出たことで獲得した新たな視点と行動力で、これからの宝泉寺温泉郷を盛り上げます。現在は、週に一回のペースでミーティングを行い、企画についての話し合いや準備などを行っています。
川と蛍の美しさを
表現したロゴ
蛍の群れとそれぞれの蛍が放つ淡い光を、輪になった7つの点で表現
宝泉寺の幻の寺紋をイメージし、全体を円で囲んでいる
宝泉寺を流れる町田川と、蛍が羽を休める草。2つの意味を1本の線で表す
復興元気!プロジェクト、ひいては宝泉寺温泉郷の旗印として制作したのが、ロゴマーク。これまで多くの企業ロゴや地域にかかわるデザインワークを手がけてきたグラフィックデザイナーの三迫太郎さんがデザインを担当しました。
かつて宝泉寺温泉郷に実在したお寺「宝泉寺」がもし今の時代に存在していたら、どんな寺紋を持っていただろうか。そんな発想から、蛍の幻想的な美しさや宝泉寺温泉郷ならではの静けさをデザインに落とし込んでいきました。複数のロゴ案の中から選ばれたのが、左ページの決定案。宝泉寺の、澄みわたっている水、町田川の流れ、夏の訪れを告げる蛍、そしてその蛍が止まる一本の草を、誰もが真似して描けるシンプルな線で表現しました。
今後の展開としては、昼と夜、春夏秋冬でそれぞれ異なる景色が立ち現れる宝泉寺温泉郷をイメージして、色を変えながら利用することも想定しています。
グラフィックデザイナー三迫太郎
福岡を拠点に、主に生活・アートに関わる分野でデザインワークを行う。伝統工芸「山鹿灯籠」とのコラボレーションによる商品開発、太宰府天満宮とのプロジェクトなど、地域と関わる業務も多い。
Instagramで魅せる
秘境の表情
宝泉寺温泉郷をまだ知らない人にも魅力を届けるために始めたのが、旅館や温泉、町田川など温泉郷と周りの自然のことを発信するInstagramです。撮影と開設は、フォトグラファー・栗山喬さん。2020年12月から数回にわたって撮影を行いました。撮影に訪れた先で出会う人々と言葉を交わし、かつての賑わいや水害の恐ろしさにも思いをはせながら、温泉郷のさまざまな表情を切り取っています。若い世代にも、時代の中で変わることなく守られてきた温泉郷の風景や、漂う空気感が伝わるはずです。また、ハイライト機能では各旅館の紹介をお届けします。今後も、宝泉寺温泉郷の魅力を発信するツールとして活用していきます。
フォトグラファーAge Cox 栗山喬
SNSへの写真投稿をきっかけに2016年にフォトグラファーとして独立。文化庁認定の日本遺産企画の撮影など、九州を中心に行政団体や企業をクライアントとするPR企画の立案・撮影を行っている。
YouTubeで誘う
宝泉寺温泉への旅路
九重の山間に位置し、朝夕には川から湯気の立ちのぼる宝泉寺温泉郷。周辺は、阿蘇くじゅう国立公園、くじゅう連山、飯田高原、多くの滝やタデ原湿原など大自然に囲まれています。自然の雄大さを思いっきり楽しんだ後に、宝泉寺温泉郷でゆっくりくつろぐ。そんな旅の提案をYouTubeで行います。制作は、自然の風景やアウトドアについてYouTubeで発信してきたモリノネさんが担当。今回の動画では、「宝泉寺温泉郷の音」をテーマに、川のせせらぎ、鳥の声、風の音、温泉の音をたっぷりお届け。日常の喧騒を忘れ、自然の音に包まれながらゆったりと温泉につかり、身も心も癒される旅に観る人の心を誘います。
映像クリエイターモリノネ
大分県を中心に活動する映像クリエーター。YouTube「モリノネチャンネル」では自然の風景や懐かしさを感じる日本の景色、アウトドアをテーマに独自の世界観で動画を更新している。
歴史ある石櫃が
カフェバーに変身
かつて共同温泉として親しまれた後、3年ほどお湯を張っていなかった「石櫃(いしびつ)の湯」。足湯に浸かりながらドリンクを楽しめる「足湯カフェバー」として復活させるべく、2021年1月中旬に、若手メンバーが清掃作業を行いました。宝泉寺内外の新しい交流を生み出すスポットを目指し、温泉水で割ったソーダや焼酎、蛍をイメージしたお酒など、宝泉寺らしいドリンクを追求していきます。
まろやかな
温泉水コーヒーに挑戦
宝泉寺の温泉水は、無色透明で、口にふくむとまろやかな甘さが感じられる軟水。この温泉水を活かせるオリジナルブレンド「宝泉寺珈琲」をつくります。2月上旬に、タウトナコーヒー(大分市)の山下周平さんから、温泉水に合うコーヒー豆の選び方、おいしいコーヒーの淹れ方をレクチャーしていただきました。今後、観光物産館「宝泉寺駅」の一角を拠点にすべく、検討を続けていきます。
コロナ禍と水害により、
宝泉寺は大きな打撃を受けました。
しかし、私たちにとっては、みんなで一つの目的に向かって活動していく
きっかけになったとも感じています。
多くの人が自然豊かなものを
求めているいま、
もっと宝泉寺のことを知ってもらいたい。
そのために、個性も強みもさまざまなプロジェクトのメンバーたちが協力し、
プロのクリエイターの力も借りながら、新しい宝泉寺をつくりあげます。
活動はまだ第一歩を踏み出したばかり。
これからも歩みを止めることなく、後の世代にも残していけるような
「元気」を生み出していきます。
――― 宝泉寺温泉郷 復興元気!プロジェクトチーム
今後の復興元気!プロジェクトの活動はFacebookで発信して行きます。
ぜひフォローをお願いします。
制作:宝泉寺温泉郷 復興元気!プロジェクトチーム
企画:株式会社 地域科学研究所
編集・デザイン:三迫太郎/文:立野由利子/写真:Age Cox 栗山喬、西田稔彦、宝泉寺温泉観光協会、九重町/Webデザイン:福田奈実/Webコーディング:株式会社ファイブ/Special Thanks:タウトナコーヒー、モリノネチャンネル、宝泉寺温泉観光協会、宝泉寺温泉旅館組合、九重町観光協会、九重町商工会、大分県西部振興局、九重町